目次
はじめに
1 ルーマニアの特徴(六鹿茂夫)
第1章 Bine ati venit!(ようこそ)
第2章 「狭間」の地政学
第3章 ルーマニア版「和魂洋才」
第4章 国際的陰謀論への強迫観念
第5章 もう一つのルーマニア人国家
2 地理・生活・文化
第6章 ルーマニアの美しい自然(佐々田誠之助)
第7章 モルドヴァの古都を歩く(住谷春也)
第8章 トランシルヴァニアの多元性(住谷)
第9章 ワラキア地方首都遍歴(住谷)
第10章 ルーマニアの建築(菅沼聡也)
第11章 ルーマニア料理(黛秋津)
第12章 ルーマニアのワイン(黛)
第13章 日常の食生活(黛)
第14章 民族音楽(関口義人)
第15章 ポップ・ミュージックと若者文化(関口)
第16章 ルーマニアの民俗舞踊(郷成仲)
第17章 ルーマニアのスポーツ(ギャルマト・ボグダン)
3 言語・宗教・国民性・人物
第18章 言語から見たルーマニア人のラテン性(伊藤太吾)
第19章 ルーマニア宗教事情(新免光比呂)
第20章 ルーマニアの政治文化と宗教(新免)
第21章 バラーダに見る民族性(1)——ミオリッツァ(住谷)
第22章 バラーダに見る民族性(2)——棟梁マノーレ(住谷)
第23章 運命論的で演歌好き——ルーマニアの演歌、ロマンツァ(六鹿)
第24章 明るく、狡賢いルーマニア人(六鹿)
第25章 日本人とルーマニア人(六鹿)
第26章 あるルーマニア人——ミルチャ・エリアーデのパリ時代(住谷)
第27章 ドラキュラとヴラッド・ツェペシュ(田崎恵子)
第28章 ルーマニアの有名人——多彩な人材を生み出す小国(黛)
4 歴史・政治
第29章 古代ローマの末裔となったダキア人(中島崇文)
第30章 中世国家三公国の成立(中島)
第31章 大国の間を生き抜いた歴史(黛)
第32章 統一国家ルーマニアの成立(中島)
第33章 大ルーマニアの成立(中島)
第34章 両大戦間期の人々の日常生活と社会(中島)
第35章 両大戦間期および第二次大戦期の政治史(中島)
第36章 ソ連型共産主義から民族共産主義へ(六鹿)
第37章 チャウシェスク体制の成立(六鹿)
第38章 チャウシェスク体制の崩壊要因(六鹿)
第39章 1989年12月政変(六鹿)
第40章 共産党独裁から複数政党制へ(六鹿)
5 ルーマニア社会の変容
第41章 鎖国政策から開放政策へ(六鹿)
第42章 二つの顔を持つルーマニア人(六鹿)
第43章 情報の統制と自由化(六鹿)
第44章 弾圧からカオスへ(六鹿)
第45章 自由化が生み出した不平等社会(六鹿)
第46章 トランシルヴァニアのハンガリー人問題(中島)
第47章 忘れられたホロコースト(住谷)
6 経済
第48章 ルーマニアにおける経済的後進性の起源(上垣彰)
第49章 両大戦間および第二次大戦期のルーマニア経済(上垣)
第50章 戦後の経済復興と社会主義化(吉井昌彦)
第51章 チャウシェスク時代の経済政策(上垣)
第52章 緩慢な歩みを見せた民営化(吉井)
第53章 経済の貧困化と富裕層の誕生(吉井)
第54章 経済の現況(吉井)
第55章 投資環境(吉井)
第56章 EUとの経済関係(吉井)
第57章 経済地理(吉井)
7 ルーマニアと日本
第58章 シベリアで日本人に託されたルーマニア人の金の指輪(中島)
第59章 ルーマニアに進出する日本企業(奈良弘之)
第60章 私が体験したルーマニア(野田望)
【フォト・エッセイ】ヨーロッパ最後の桃源郷——マラムレシュの村より(みやこうせい)
【コラム】
ルーマニアの野外博物館(菅沼)
酒のある風景(郷)
クラシック音楽(新渡戸常憲)
民衆の生活儀式に根ざす民族舞踊「カルーシュ」(郷)
ルーマニア正教会の起源(新免)
ルーマニアのイコン(新免)
宗教からみたルーマニア国民性(新免)
ドラキュラ・パークとブラン城(田崎)
徳冨兄弟とルーマニアとトルストイ(住谷)
ルーマニア大使がみた日本(アウレリアン・ネアグ)
前書きなど
はじめに
ルーマニアと聞いて、読者の方々は何を想起されるだろうか。モントリオール・オリンピックの「白い妖精」ナディア・コマネチ、世界中の人々をテレビに釘付けした一九八九年末のルーマニア政変とチャウシェスク、その後マスメデイアが競って取り上げたストリート・チルドレンとエイズ患者、それにドラキュラ伯爵といったところであろうか。確かにこれらはルーマニアを象徴する人物や事象ではある。しかし、これだけでルーマニアを語り尽くせるわけではない。マスメディアは最近になって漸くルーマニアの美しい自然に魅了されたようであるが、それでもルーマニアについての情報は偏っている。
そこで、等身大のルーマニアをできるだけ多くの日本の読者に知っていただこうと、本書が企画された。編者としてまず心がけたことは、楽しい読み物になるよう、ルーマニアの美しい自然や観光、人々の生活、宗教やイコン、料理やワイン、ポップミュージックや民俗舞踊、スポーツ、ドラキュラなど、親しみやすいテーマに多くのページを割いたことである。ルーマニアの美しい自然に足を踏み入れ、素朴な人々との触れあいを待ち望んでおられる方々をはじめ多くの方々に、本書は必ずや親しんでいただけるものと思う。
また、ルーマニアに関する概説書が皆無であることに鑑み、本書はルーマニア人の暮らしや社会を広範囲にわたって紹介しようと試みたが、同時に以下の三点にこだわった。一つは、冒頭において、ルーマニアの欧州における相対的な位置づけおよび特徴を描き出すよう試みた。もう一つは、国民性について多角的に捉えようと工夫した。このテーマは、編者が冷戦たけなわの一九七八年暮れに初めてルーマニアに足を踏み入れて以来最大の関心事であり続けたが、ルーマニアに興味を抱く人々や、何らかの形で同国と関わりを持ってきた人達にとって、おそらく最も知りたいテーマではなかろうか。さらにもう一つは、マスメディアで報じられることはなかったが、一九八九年の「ルーマニア政変」をテレビで食い入ってみた人々にとっておそらく興味津々な、その後のルーマニア社会の変容について、チャウシェスク政権時代と比較しながら描写した。
また、歴史、政治、経済については、ルーマニア人の歴史的ルーツ、経済的後進性の起源、一九八九年政変をめぐる論争、指令経済から市場経済への移行過程など興味深いテーマを厳選し、第一線の研究者に執筆いただいた。単に楽しい読み物に終わることなく、ルーマニアを知るために不可欠な歴史、政治、経済に関する知識も十分身につけていただけるものと期待している。
ただ、ルーマニアを多面的に紹介するよう試みたとはいえ、将来の宿題として残された分野もある。たとえば、ルーマニア文学は、国民の風習や思考様式、さらには社会の仕組みなどを知る上で不可欠な領域である。ルーマニア文学がヨーロッパ文学の中でどう位置づけられ、いかなる特徴を有するのか、是非とも知りたいテーマであるが今回は見送らざるを得なかった。
本書は、ルーマニアで長年暮らしたか、何度も足を運んで各々のテーマを追い続けてきた専門家達の手による、日本で初めてのルーマニア概説書である。日本とほぼ同じ頃近代国家として歩み始めたルーマニアが、日本と異なる道を歩まざるを得なかった理由や、ルーマニアの不思議さや魅力を、本書を通じて堪能していただければ望外の喜びである。
編者は読者の方々が読みやすいよう地名や人名などを統一しようと試みたが、誇り高き専門家集団はそのような編者の目論見を許してはくれなかった。したがって、ルーマニア語の日本語表記に若干のばらつきがあるが、しかしそれらはあくまでも日本語表記上の問題に過ぎず、例えばスチャーヴァかスチャヴァのどちらを用いてもルーマニア人には十分通じる程度の僅差であることをご理解いただきたい。また、ブカレストとカルパチアに関しては、ルーマニア語ではブクレシュティ(Bucuresti)とカルパツィ(Carpati)であるが、既に馴染みある前者を用いた箇所が多々あることをあらかじめお断りしておきたい。