目次
「移民・ディアスポラ研究」6の刊行にあたって[駒井洋]
序章 難民問題とゆらぐ人権理念[人見泰弘]
第Ⅰ部 なぜ難民は生まれるのか――作り出される難民危機
第1章 「難民」の生まれる時代――グローバリゼーションの時代における人の移動[伊豫谷登士翁]
第2章 難民問題の原点としてのユダヤ人難民について[駒井洋]
Column1 難民不在の「難民問題」[山岡健次郎]
第3章 難民を生み出すメカニズム――南スーダンの人道危機[栗本英世]
第Ⅱ部 難民の管理と排除の現在――アフリカ・中東・ヨーロッパ・米国
第4章 なぜ中東から移民/難民が生まれるのか――シリア・イラク・パレスチナ難民をめぐる移動の変容と意識[錦田愛子]
Column2 漂流するロヒンギャ[佐伯奈津子]
第5章 難民キャンプと故郷のダンス――スーダン青ナイル州からのある難民コミュニティの場合[岡崎彰]
Column3 〈キャンプ化〉からみる難民問題[久保忠行]
第6章 難民問題の「矛盾」とトルコの政治・外交――ソフトパワー・負担・切り札[今井宏平]
第7章 ヨーロッパの難民受け入れと保護に関する現在的課題――「難民危機」という神話を超えて[久保山亮]
Column4 難民問題とBrexit(英国のEU離脱)[橋本直子]
第8章 難民問題とアメリカ「人権政治」の危機[佐原彩子]
第Ⅲ部 ディアスポラとしての難民――トランスナショナルな社会空間
第9章 アフリカにおける難民・ディアスポラのトランスナショナルな活動[宮脇幸生]
第10章 在米ベトナム難民とトランスナショナルな政治[古屋博子]
Column5 無国籍と国籍のはざまで――チベット長期化難民が帰化申請するまで[三谷純子]
第11章 「ソマリ・ディアスポラ」とソマリランド平和委員会[須永修枝]
第12章 滞日ビルマ系難民と祖国の民政化――帰還・残留・分離の家族戦略[人見泰弘]
Column6 なんみんフォーラム 市民レベルの難民支援活動[石川美絵子]
書評
セイラ・ベンハビブ著(向山恭一訳)『他者の権利――外国人・居留民・市民』[駒井洋]
墓田桂著『難民問題――イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題』[駒井洋]
編者あとがき[人見泰弘]
前書きなど
「移民・ディアスポラ研究」6の刊行にあたって
(…前略…)
シリーズ第6号のタイトルは、「難民問題と人権理念の危機」とすることにした。ここで難民とは、自国外ばかりでなく自国内でも強制移動せざるを得ない人びとをさす。難民は政治的、市民的地位に起因する迫害によって生まれるばかりでなく、自然災害、内戦、戦争、経済的惨状などによっても生まれる。
第二次世界大戦後1970年代までの難民は東西冷戦、イスラエル建国、ポストコロニアル的状況などによって発生したが、1980年代以降は、大国によるイスラーム圏にたいする軍事的干渉、サブサハラ・アフリカを中心とする国家崩壊などを発生原因とするものへと様変わりした。とりわけ2010年代以降、内戦によりシリア人口の半数以上の1000万人強が難民となり、多くの者がヨーロッパ連合(EU)諸国に避難先を求めようとしたが実質的に拒否されており、難民問題は新しい段階をむかえた。
こうして、第二次世界大戦後ようやく人類に共有されるようになった人権理念は、いまや危機に直面している。ハンナ・アーレントは、ネイション(国民、民族)の鼓吹により、法の支配のもとにあったネイション・ステイト(国民国家)が内部崩壊していく可能性を警告している。EU諸国についてもそのおそれを否定できないが、トランプ新大統領の移民・難民排斥もアメリカの内部崩壊を予兆するものであるかもしれない。
このような問題意識のもとに、本書は、難民の発生過程および難民にたいする不十分な対応策の歴史的展開を理論的に考察する第Ⅰ部、難民の管理と排除の現実を地球規模で歴史的に検討する第Ⅱ部、庇護国に滞在しながら祖国とのつながりを保ちつづけるディアスポラとしての難民を検討する第Ⅲ部から構成されている。
本書が世界的な難民問題の解決に少しでも貢献できることを切望する。